協会たより

2013年10月18日 金曜日

平成24年度 神奈川県母子保健指導者研修会

平成24年度 神奈川県母子保健指導者研修会
シンポジウム 発達障害のこどもたちの成長を促すために
「就学前の支援」
~いま私たちができること、これから求められること~

座  長         リソースセンターone 臨床発達心理士    上原 芳枝  
シンポジスト
◇小児科医から:みどりの家診療所院長  (医師)                      三宅 捷太
◇療育から:横浜市東部地域療育センター地域支援課長(ソーシャルワーカー)   大野  伸之
◇保育現場から:藤沢市立藤沢保育園長  (保育士)                       瀬戸 富美江
◇行政(福祉)から:小田原市障がい福祉課専門監  (保健師)              内田 暁子
◇行政(保健)から:川崎市市民・こども局こども本部 こども家庭課長  (保健師)  堀田 彰恵
◇園・小学校一貫の発達支援アドバイザーの立場から:
           リソースセンターone(臨床発達心理士)                上原 芳枝

 
-シンポジスト発言要旨 -

小児科医から
■重症心身障害児者多機能支援施設 みどりの家診療所院長
 三宅 捷太 氏


私は障害児医療を中心に教育・福祉・保健と深くかかわってきた小児科医です。臨床医が発達障害のある子どもと家族にいかに接し診療しているかを改めて考えました。まずは地域のかかりつけ医として一般診療をはじめとして予防接種・乳幼児健診・学校健診を通して健康支援をしています。その際の配慮として①診察室は整理に努め不要なものはおかずに単色系の壁・カーテンとする。②診察や注射などの順序の絵カードを作成し言葉と共に説明する。③本人のつらさ、親の困り感に共感し、問題の指摘だけをするのでなく、診断をきちんと言った後で、母親の上手な関わりのアドバイスをする。④睡眠・排泄・良質の水分摂取・自然との接点・親とのスキンシップなど、どの子どもにも共通の「良いとこみつけ」と「ほめて育てる」の子育て支援にまず努める。⑤夫婦仲良く、前向きな家族の姿勢と、治してからではなく発達障害と共にある生活をめざす。広い公園で一緒に走り遊びまわるなどと、子どものすることを親が模倣すると拘り行動が溶けて相互模倣の関係ができる。⑥同じ思いの親同士の交流が光となるので親の会を紹介し、子どもにじっくり向き合える状況を作る。⑦薬剤の利用はこれらを円滑にするためであることを相互に確認して使う。以上、診療所医は毎年変わる保育士・教師に対して、引っ越しがなければ継続して子どもの健康支援と親の子育て相談に乗れる点で存在意義は高く、よい連携対象でありうると考えます。

療育から
■横浜市東部地域療育センター地域支援課長(ソーシャルワーカー)
 大野  伸之 氏


横浜市の各地域療育センターでは、発達に不安を訴えて来所される方の相談をしています。その申し込み数は増加し続けており、各センターで様々な取り組みが実施されています。当センターでの3つの柱として、ソーシャルワーカーの受付から各相談、診療体制および外来での指導内容、早期療育グループ、児童発達支援事業、通園療育における集団療育の取り組みを報告しました。地域での活動の報告では、幼稚園・保育所、小学校等の連携活動として巡回訪問、研修会等を紹介しました。また、幼稚園・保育所で実際に取り組まれている配慮が必要な子どもたちへの取り組みについて写真を通じて紹介しました。近年の幼稚園・保育所での傾向として配慮が必要な子どもの増加は明確であり、各園では「どの子にも過ごしやすい環境」を主点に保育を考えています。療育センターとしてその一助となるよう連携を強化しています。


保育現場から
■藤沢市立藤沢保育園長(保育士)  
  瀬戸 富美江 氏


「神奈川県小児保健協会パイロット事業を実施して」
パイロット事業の実践として、2012年3月発行の協会便りはアドバイスのほんの一例ですが、上原先生の具体的なアドバイスを基に保育を実施いたしました。特に保護者にアドバイスを伝えたことで、「何故こうなるのかと思っていたことが理解できました」と話され、保護者がこどもの状態を理解して関わる姿が見られました。保育士と保護者が共通の認識を持つことができたことは、より良い支援につながったと実感いたしました。

 
行政(福祉)から
■小田原市障がい福祉課専門監(保健師)   内田 暁子 氏


「保育園等巡回相談を実施して」 
公立保育園での発達障害や気になる子が増加する中で、平成22年度より保育士の支援として早期発達支援モデル事業がスタートした。将来の子どもたちの発達支援を視野に入れながら、療育機関の保育士、保健師、臨床心理士がチームを組み実施した。園では、発達障害児の観察をしながら、集団生活でのアドバイスを行っている。保育士へのカンファレンスを通し具体的な解決策を提案していく。また、必要であれば他機関の連携もスムーズにいくようコーディネーター役も行う。年長児については就学相談へ上手くつながるように、3歳までは健診との連携を促し、療育が必要な児は療育機関との連携ができるよう支援してきた。また、親の希望により個別相談と園の巡回相談との連携も始まっている。今年度は、幼稚園や民間保育園へも拡大してきた。
多職種がチームでアプローチすることで、お互いの専門性を理解し発揮しながら、他機関の連携や、よい支援につながってきている。


行政(保健)から
■川崎市市民・こども局こども本部こども家庭課長(保健師)               堀田 彰恵 氏

「川崎市5歳児健康診査事業について」
川崎市では、5歳児健診を昭和60年から実施していますが、平成20年度に問診項目等の見直し検討を行いました。その主な内容は、
●受診票等帳票類の改訂(発達障害の気づきと支援の機能を強化するため問診項目、指導項目等の見直し) 
●啓発リーフレットを作成し健診の案内に同封して送付 
●健診実施医療機関、保育園・幼稚園等関係機関との連携強化  の3点です。
その後、受診率が平成20年度の72.8%から,平成22年度73.4%,平成23年度75.8%と向上しました。また、医師の指導項目に新設された「園の先生への相談勧奨」の助言に従って、保護者が保育士や幼稚園教諭に相談し専門相談機関につながった等の事例も数件認められています。今後も、引き続き発達障害の気づきと支援に向けて、健診後のフォロー機能の強化や関係機関との更なる連携強化等に取組んでいきたいと考えています。


園・小学校一貫の発達支援アドバイザーの立場から
■リソースセンターone(臨床発達心理士)               上原 芳枝  氏

発達障害児・気になる子は、部分的に2~4年程遅れて発達し知的な遅れはないため、子どもに合った育て方により、4年生位までには個性の範疇となる子も多い。従って、「就学までに」と区切る発想をやめ、4年生位までのスパンで他児と同じような言動にゆるやかに"軟着陸させる"視点とプランが必須である。
ある園と小学校を一貫して担当している発達支援アドバイザーとして、子どもを伸ばすた
めに最も重要な "縦の連携" 引き継ぎシステムを紹介しました。
【*上原先生にはシンポジストとしても、ご発言いただきました。】

 

-シンポジウムから見えたもの-
上原 芳枝 氏

「発達障害」という言葉が浸透しつつある昨今ですが、保護者の方や先生方の日々の戸惑いを裏付けるかのように、この日の会場は溢れかえっていました。"発達障害のこどもたちの成長を促すために「就学前の支援」~いま私たちができること、これから求められること~"というテーマでシンポジウムが実施され、医療、療育、行政(巡回相談・5歳児健診)、保育現場から神奈川県内の最前線で活躍されている方々の報告と、東京を中心に活動する私から園と学校の連携の報告、質疑応答で展開されました。座長を仰せつかり、せっかく県下の最前線の方々が一堂に会するのだから、各報告で終わるのではなく「連携」に焦点を絞って進行したいと考えました。
発達障害か否かの線引きは曖昧で、知的障害はないが発達の偏りが顕著で目立つ行動をする子から軽微な子まで状態は様々であるため、まず園で特性に合った対応することが重要ですが、現場の苦境も報告されました。園への支援として療育機関の担当者が園に訪問するだけでなく、対応について園からの確認の電話が入るという報告もありました。巡回相談では専門機関に"つなぐ"ことよりも、まず、より具体的な対応策が園の先生方に提供されることを期待したいと感じました。
人間の骨格でいえば"背骨"に当たる『縦の連携』は最も重要です。気になる子は、部分的に2~4年程遅れて発達するため、「就学までに」と区切る発想を変え、4年生位までのスパンで他児と同じような言動にゆるやかに"軟着陸させる"支援プランが必須となります。私からは、3歳から4年生までの一貫した支援体制で、保護者はわが子が特別支援児であることを知らずに、ほとんどの子どもは4年生までには支援から外れていくことを報告しました。
『横の連携』は園と医療・療育機関の連携です。医療現場からは、園の先生方からの情報提供を積極的に求める旨のお話しがありました。ドクターが保護者と園の緩衝材となることで、よりよい支援も期待できます。これには園、医療機関がオーバーワークにならない書式やシステムが求められるでしょう。
5歳児健診では、保護者の気付きを起点に医療や療育へ"つなげぐ"ことが主な目的とのことでした。「個人情報」の壁が立ちはだかり、主たる支援の場である園や学校に健診の情報提供が難しいことも浮き彫りとなりました。
これから成長する幼児期に、保護者がわが子と他児の違いを"認める"選別の負担からスタートしない支援であってほしい。特性に合った支援は、特別でない当たり前の子育て支援となってほしい。本人が、保護者が、先生が必要以上に苦しまないために、~いま私たちができること、これから求められること~を具現化するには、行政の枠組みの構築はもちろん、必要に応じて現場同士が無理なく有機的に連携して成果をあげ、実証されたモデルとして広く提示することが、実は近道だろうと再認識できたシンポジウムでした。

投稿者 神奈川県小児保健協会